非器質性精神障害(うつ病・PTSD)と後遺障害

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非器質性精神障害と後遺障害 ザックリ
「非器質性精神障害」とは、脳の組織に物理的な損傷がない精神的な障害のことをいいます。代表的なものでは、PTSDやうつ病があります。


シッカリ

交通事故による後遺障害の等級認定は、物理的なケガだけが対象になっていると思われがちですがそうではありません。

交通事故で強烈なショック体験をしたことにより、思い出したくないのに事故の記憶が勝手に蘇るPTSDを発症した場合や、事故によって変化してしまった生活への不安、ケガの痛みからうつ病を発症した場合に後遺障害として等級認定される可能性があります。


非器質性精神障害とは

脳の組織に物理的な損傷がない精神的な障害を「非器質性精神障害」といい、PTSDやうつ病の他にパニック障害[?]、外傷性神経症[?]などがあります。

これとは逆に事故で外部からの力によって脳の組織に物理的な損傷があり、これ伴う精神的な障害を「器質性精神障害」といい、高次脳機能障害[?]がこれにあたります。

用語の解説
読んでいたところへ戻る 「パニック障害」
パニック障害とは、 突然起こる激しい動悸や発汗、頻脈(ひんみゃく:脈拍が異常に多い状態)、ふるえ、息苦しさ、胸部の不快感、めまいといった体の異常と共に、このままでは死んでしまうというような強い不安感に襲われる病気です。
読んでいたところへ戻る「外傷性神経症」
外傷性神経症とは、 外傷を受けたのちに起こるいわゆるノイローゼ。 身体に異常がないのに、精神的原因によって精神や身体にいろいろな症状が現れること。
読んでいたところへ戻る「高次脳機能障害」
高次脳機能障害とは、脳にダメージをうけることにより、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を発症するものをいいます。
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PTSDについて

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、突然の不幸な出来事によって強い精神的ストレスがこころのダメージとなって、心身ともに支障をきたし、社会生活にも影響をおよぼす精神的な後遺症や疾患のことをいいます。

原因としては、交通事故の他に、自然災害、火事、暴力など犯罪被害などがあります。

症状としては、時間がたってからも、その経験した怖い出来事を自分の意志とは関係なく繰り返し思い出したり、不安や緊張がつづいたり、怖い経験をした場所を無意識のうちに避けたりします。その他にも睡眠障害、 幸福感の喪失、物事に対する興味・関心がなくなることもあります。

これらは、怖い出来事を体験したあとなら誰でもなる可能性がありますが、何ヶ月も続くようなら精神科や心療内科にご相談ください。


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うつ病について


うつ病とは、 強い憂うつな状態が長く続き、日常生活に支障を来してしまうような病気のことをいい、きっかけとしては、事故によるその後の環境の変化、いつまでもつづく痛みなどからうつ病を発症することがあります。

人は生活の中のいろんな出来事があり、気持ちが落ち込んで憂うつな気分になることは誰にでもあります。しかし、この憂うつな気分は問題が解決したり、一時的な気分転換などにより自然に回復するものですが、そうはならず、強い憂うつな気分が長くつづのがうつ病です。

交通事故では、その後の環境の変化、いつまでもつづく痛みなどからうつ病を発症することがあります。

うつ病の症状には、精神症状と身体症状があります。

精神症状
気分が落ち込む、興味や喜びの喪失 、体の動きが遅くなる、逆に、じっとしていられない、思考力や集中力の低下 、何をするのも面倒になる、何でも悪いほうに考える、生きていくのがつらい、死んだほうがましだ、などがあります。

身体症状
眠れない、逆に眠気が強く起きてられない、食欲の低下または増加 、疲労、倦怠感 、頭痛、肩、腰、背中などの痛みなどがあります。

うつ病は、脳の機能に障害が起こる病気で、気持ちの問題で起こるものではありません。思い当たる症状があれば精神科や心療内科にご相談ください。


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非器質性精神障害の認定基準について

PTSDやうつ病を代表とする非器質性精神障害が後遺障害として認定されるには、以下のポイントが重要となります。

  • 後遺障害の存在
  • 就労意欲の低下等による区分
  • 等級と認定基準

具体的にいうと、厚生労働省が通達した労災の障害等級認定基準に該当する必要があります[?]。この労災の認定基準では、主治医に対して、下の「後遺障害の存在」にある表右側の「[B]能力に関する判断項目」の8項目につき評価を求め、もうひとつ下の「就労意欲の低下等による区分」の評価も求め、それらを組み合わせて「認定基準」に当てはめを行い、後遺障害として原則的に9級、12級、14級(もしくは非該当)に認定されることになります。

用語の解説
読んでいたところへ戻る 「厚生労働省が通達した労災の障害等級認定基準に該当する必要があります」
交通事故による後遺症の後遺障害認定のことなのに、労災保険の認定基準に基づいて行われるのはなぜかというと、保険会社の監督行政庁である金融庁と国土交通省からの通達で決められているためです。
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後遺障害の存在

以下の表により、非器質性精神障害の後遺障害が存在することと認められる必要があります。

具体的には[A]精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、[B]能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要となります。

[A] 精神障害
[B] 能力に関する判断項目
(1) 抑うつ状態
  • 持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的であるなど)、何をするにもおっくうになる、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態がこれにあたります。
(1)身辺日常生活
  • 入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて判定されます。なお、食事・入浴・更衣以外の動作については,特筆すべき事項がある場合には加味しての判定するものであります。
(2)不安の状態
  • 全般的不安や恐怖、心気症[?]、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態がこれにあたります。
(2)仕事・生活に積極性・関心を持つこと
  • 仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽などの日常生活に対する意欲や関心があるか否かについての判定するものであります。
(3)意欲低下の状態
  • すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態がこれにあたります。
(3)通勤・勤務時間の遵守
  • 規則的な通勤や出勤時間など、約束時間の遵守が可能かどうかについて判定するものであります。
(4)慢性化した幻覚・妄想性の状態
  • 自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえるなど、実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っているなど内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態がこれにあたります。
(4)普通に作業を持続すること
  • 就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて判定するものであります。
(5)記憶または知的能力の障害
  • 非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘[?]がある。自分が誰であり、どんな生活史[?]を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態がこれにあたります。
(5)他人との意思伝達
  • 職場において上司・同僚などに対して発言を自主的にできるかなど、他人とのコミュニケーションが適切にできるかの判定するものであります。
(6)その他の障害(衝動性の障害,不定愁訴[?]など)
  • その他の障害には,上記(1)~(5)に分類できない症状、多動[?]、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴[?]などがあります。
(6)対人関係・協調性
  • 職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうかなどについて判定するものであります。
(7)身辺の安全保持、危機の回避
  • 職場における危険などから適切に身を守れるかどうかの判定するものであります。
(8)困難・失敗への対応
  • 職場において新たな業務上のストレスを受けたときに、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるかなど、どの程度適切に対応できるかの判定するものであります。


用語の解説
読んでいたところへ戻る 「心気症」
心気症とは、検査では明らかな異常が無いにもかかわらず、すこしの体調不良を重い病気だと強く思い込みにとらわれる精神疾患です。
読んでいたところへ戻る「解離性(心因性)健忘」
解離性健忘とは、トラウマやストレスによって、最近のことや昔の出来事をまったく覚えていなかったり、部分的に思い出せなかったりする状態のことをいいます。
読んでいたところへ戻る「生活史」
生活史とは、個人のこれまでの歴史。
読んでいたところへ戻る「多動」とは
多動とは、落ち着きがなく動き回る症状のことをいいます。
読んでいたところへ戻る「 不定愁訴 (ふていしゅうそ)」
不定愁訴とは、「頭が重い」、「イライラする」、「疲いつまでも疲れがとれない」、「よく眠れない」などの自覚症状を訴えるが、検査をしても異常が発見できない状態のことをいいます。
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就労意欲の低下等による区分

a. 就労している者または就労の意欲のある者
現に就労している者または、就労の意欲はあるものの就労はしていない者については、[A]精神症状のいずれか1つ以上が認められる場合に、[B]能力に関する判断項目の各々について、その有無及び助言・援助の程度によって後遺障害を認定します。

b. 就労意欲の低下または欠落により就労していない者
就労意欲の低下または欠落により就労していない者については、身辺日常生活が可能である場合に、[B]能力に関する判断項目(1)身辺日常生活の支障の程度でにより後遺障害を認定します。


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認定基準


9級

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの

矢印 具体的にいうと
  • 上記、「就労意欲の低下等による区分」で「a.就労している者または就労の意欲のある者」に該当する場合には、[B]能力に関する判断項目の(2)~(8)のいずれか1つの能力が失われているものまたは、[B]能力に関する判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

    例:非器質性精神障害のため、「対人業務につけない」ことによる職業制限が認められる場合
  • 上記、「就労意欲の低下等による区分」で「b.就労意欲の低下または欠落により就労していない者」に該当する場合には、身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残っているもの

等級が認定された場合の慰謝料・労働能力喪失率
等級
慰謝料(自賠責)
慰謝料(裁判基準)
労働能力喪失率
9級245万円600~700万円35%



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12級

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの

矢印 具体的にいうと
  • 上記、「就労意欲の低下等による区分」で「a.就労している者または就労の意欲のある者」に該当する場合には、[B]能力に関する判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

    例:非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労にあたりかなりの配慮が必要である」場合
  • 上記、「就労意欲の低下等による区分」で「b. 就労意欲の低下または欠落により就労していない者」に該当する場合には、身辺日常生活を適切または概ねできるもの

等級が認定された場合の慰謝料・労働能力喪失率
等級
慰謝料(自賠責)
慰謝料(裁判基準)
労働能力喪失率
12級93万円250~300万円14%



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14級

通常の労務に服することはできるが,非器質性精神障害のため,軽微な障害を残すもの

矢印 具体的にいうと
  • 上記、[B]能力に関する判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当します。

    例:非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労にあたり多少の配慮が必要である」場合

等級が認定された場合の慰謝料・労働能力喪失率
等級
慰謝料(自賠責)
慰謝料(裁判基準)
労働能力喪失率
14級32万円90~120万円5%



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後遺障害等級認定のポイント

交通事故と精神的な障害との因果関係

PTSDやうつ病のような診断名がつけば後遺障害として等級認定されるわけではありません。まずは、事故と症状との因果関係を証明する必要があります。

気質的な損傷(身体の組織そのものに生じた損傷)の場合は、その損傷した部分を確認できれば、それが事故によって発生したと考えることができます。

しかし、PTSDやうつ病のような非器質性の精神障害の場合は、身体の組織に物理的な損傷がみられないこころの病気なので、身体のどの異常状態が精神障害を発生させているのかわからないことが多く、客観的に証明することは困難とされています。 また、事故だけでなく、家庭環境や職場環境が影響して発症する可能性もあります。

因果関係を認定するには、自賠責保険の実務上、主に以下のポイントを総合的に判断することになります。

  • 事故状況
  • 受傷内容
  • 精神症状の出現時期
  • 精神科等の専門医への受診時期


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専門医による適切な治療

精神障害か発症した場合に、精神科や心療内科に相談し、適切な治療をうけることも大事なことといえます。診断名がついたから精神障害が後遺障害として認められるわけではなく、専門医のもとで半年から1年くらい適切な治療をうけたうえで症状の改善が認められないときにはじめて後遺障害して認定される可能性がでてくるとお考えください。


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重い症状を残している方の治癒の判断

重い症状を有している方(上記、「後遺障害の存在」にある表右側の[B]能力に関する判断項目のうち(2)~(8)のいずれか2つ以上の能力が失われている方)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められるない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を続けることになります。

ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治癒の状態にあるものとし、後遺障害として等級を認定することになります。

なお、その場合の後遺障害の等級認定は上記認定基準によらずに、個別に検討し、障害の程度をふまえて認定されることになります。

  • 注1:非器質性精神障害については、症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質があると考えられている。
  • 注2:業務による心理的負担を原因とする非器質性精神障害は、業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年~1年、長くても2~3年の治療により感知するのが一般的であって、業務に支障の出るような後遺症状を残すケースは少なく、障害を残した場合においても各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労が可能となる程度以上に症状がよくなるのと考えられれいる。



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以上、「非器質性精神障害(うつ病・PTSD)と後遺障害」でした。